運転資本(working capital)
企業の継続的経営に必要な賃金、原材料の購入代金や買掛金の支払い、借入金の元本支払いなどに充当するために用いられる資本を運転資本という。それは、固定的な生産手段に投下された固定資本に対比される。運転資本の不足のために、一定期日の債務の弁済ができないときは、企業は支払い不能に陥り、倒産の事態を招く。運転資本の概念には、(1)総運転資本(gross working capital)と、(2)正味運転資本(net working capital)の区別がある。前者は、現金預金、手持有価証券、受取勘定(売掛金、受取手形)、在庫、前払費用などの流動資産の合計をさしている。後者は、流動資産から流動負債を差し引いた残額をさしている。
総運転資本のなかで、現金預金および手持有価証券は、直接的な支払資源をなしている。手持有価証券は、株式、社債、国債など市場性のある有価証券であり、必要なときに直ちに現金に換貨できるものであり、子会社投資勘定は含まない。受取勘定は、1年以内に現金に回収される見込みをもつために運転資本の項目とされるが、その100%が必ずしも回収されるわけではない。
在庫は、原材料、仕掛品、製品、部品の在庫からなっており、運転資本の最大の項目をなすが、それが現金に還流するためには、製造過程と販売過程をへて売掛金の回収をまたなくてはならない。同じ運転資本項目のなかで、受取勘定と在庫は、短期間に現金に還流する見込みがあるために、運転資本とされるが、それが現金に回収されるまでの間は運転資本の需要源をなしており、それらは運転資本の供給源であるとともに需要源であるという二重の性格をもつことに注意を要する。
製品の多様化によって在庫は増加する傾向があるうえに、企業の成長期には売上高にたいする受取勘定や在庫の比率は増加する傾向をもっている。さらに不況期に入ると、売上の不振で在庫が増え、手形のサイトの延長や現金回収率の低下によって受取勘定が増える。一面において、受取勘定と在庫の増大は、運転資本の潜在的な供給源の増加を意味しているが、多面においてそれが現金に回収されるまでは、運手資本の需要を増大させ、現金預金の支払資源を圧縮して、企業の支払不能に陥る原因をなしている。かくて、企業の支払能力は、総運転資本ではなくて正味運転資本によってはかることが必要であり、受取勘定や在庫は流動負債によってまかなわれるとすれば、正味運転資本は、現金および手持有価証券から主に構成されることになる。
企業環境の不確実性に対応するためには、現金在高の増加が必要とされるが、それは減価償却費の集積、利益の内部留保、時価発行による増資プレミアム、受取勘定の早期回収、在庫の圧縮や経費節減などによって実現される。




