減価償却不足(short-fall of depreciation)
インフレーションによる貨幣価値の低下によって、設備の耐用年数の期間に毎期減価償却によって回収された資金総額がその設備の取替原価に不足することを減価償却不足という。それは、資本損失であり、企業の実体資本のロスを意味し、設備の取替のさいに資金不足を生じる原因となる。会計上ないし税法上では、減価償却には取得原価主義がとられており、取得原価から残存価格を差し引いた金額を一定の耐用年数の間に減価償却によって回収する方法がとられているために、インフレーションによって一貨幣単位の購買力が低落するとき、減価償却不足を生じる。その分だけ架空利益が計上され、それに対して余分の税金が課せられる結果になる。
減価償却不足を防ぐためには、減価償却に取替原価主義を採用するか資産再評価を行うかの方法がある。前者については、将来に予想される取替原価の正確な算定が困難であるという問題がある。後者の場合、資産再評価に対してわが国の税法上では課税を受けるという問題がある。実際的な方法として、設備の耐用年数の短縮や、特別償却を行う方法が考えられる。しかし、この方法も万全ではなく、それは早期に投下資本を回収することを可能にするが、減価償却済み後において減価償却費はゼロとなり、架空利益が計上されることになる。最後に企業に残された道は、設備について二重帳簿を設け、その一つで取得原価主義による減価償却を行って、価格決定や真実の利益計算に役立てる一方、設備の取替資金不足に充当するための実体資本維持積立金を設け、利益留保の積み増しを行う必要がある。もう一つの方法は、設備の資金調達にあたって、インフレーション下ではできるだけ借入金によって調達し、貨幣価値の低落によって生じる債務者利潤によって減価償却不足の一部を補充する方法である。わが国の企業は、意識的にあるいは無意識的にこの方法を採用してきたが、それは企業の資金構造を不健全にし、流動性の低下を引き起こす危険をもっている。




