能率概念(efficiency concept)
最小の犠牲によって最大の成果を達成する手段選択の合理的な基準を能率という。能率の価値基準がその国の最大多数の人によって内面化されることによって、その国の工業化は進められるのであって、それは工業化文明を形成するコアの価値基準をなしている。能率が組織成員の行動基準としてどの程度に内面化されるかによって、企業の効率は大きく左右される。20世紀初頭のアメリカにおこったテイラーリズムに影響を受けて起こったわが国の「能率増進運動」は、能率手法の普及というよりも、能率を内面的な価値基準とする能率意思の普及をもつものであった。能率の尺度は、投入量(input)に対する産出量(output)の比率であらわされる。また、能率は、経済的能率と技術的能率に分けられる。前者は、投入量や産出量を貨幣価値で測定したものであり、費用・収益比率や資本利益率などをさしており、経済性原則や収益性原則はいずれも経済的能率をあらわしている。後者は、投入量や産出量を物量で測定したものであり、生産性、燃料効率、材料歩留り率などが技術的能率をあらわしている。
サイモン(H.A.Simon)は、管理を手段の合理的な選択であると規定し、管理の統一原則として能率概念をあげている。その場合、能率とは、成果を一定とすればコストの最小の手段を選択し、コストを一定すれば最大の成果をもたらす手段を選択することである。同時に機会原価の概念を導入し、特定の資源を他の用途に向けた場合に得られる収益をコストとみなすことによって、視野の狭い技術論的な能率概念からの脱皮をはかっている。また、目的の達成に合理的な手段も価値的に中立ではないとして、手段が社会価値や人間価値にもたらす影響を考慮することを命じ、能率原則と社会的責任との調和をはかっている。最後に、経営管理の基準として組織を構成する個人の能率を考慮しなくてはならない。企業組織を構成する個人として、従業員、株主、消費者などが含まれる。個人も、最小の犠牲で最大の成果を得ようとする能率の原則によって行動している。個人の犠牲は、企業組織に対する貢献であり、個人の得る成果は企業組織から受け取る誘因である。誘因が貢献に等しいか、それより大であるとき、個人の能率は達成され、満足を得ることによって、組織への貢献を継続し、それによって、企業組織は存続できるのである。バーナード(C.I.Barnard)は、構成員の各個人に対して誘因と貢献のバランスをとることのできる組織の能力を「組織の能率」(organizational efficiency)といっている。企業組織を構成する各個人の能率を確保できるかどうかに、企業組織の存続がかかっているからである。
さらに、経営管理の基準として、能率概念に対して、効率概念(effectiveness concept)があることに、注意しなけらばならない。技術論的な能率概念に対して、効率は上位概念をなし、それは経営目的の達成度をさしている。能率の場合、目的は所与であり、手段の合理的な選択という手段決定の基準をなしているのに対して、効率概念は、経営目的の達成度であり、環境の変化に適応して経営目的の変更や、新しい経営目的を決定するという目的決定の基準をなすからである。企業環境の変化が激しく、不確実性をますにつれて、経営学の中核の原理は技術論的な能率概念から効率概念に重点を移行する傾向にある。




