負債比率(debt to equity ratio:D/E)
経営分析において企業財務の安全性もしくは健全性を示す指標の一つで、企業の資本構成を示すものである。企業経営において資本の調達方法は、株式会社の場合、(1)株式の発行および利益留保の蓄積による自己資本によるものと、(2)金融機関からの借入や社債の発行による他人資本によるものとに大別される。この自己資本と他人資本を対比した比率が負債比率であり、次の式によって算定される。
負債比率(%)=(他人資本/自己資本)×100
企業活動における資金調達の原点は自己資本で賄うことにある。しかし、現実の経営活動において、資金需要のすべてを自己資金で賄うことはとうてい難しいことである。そこで、企業経営の安全性および健全性の観点から、負債比率は100%以下であることが望ましいとされている。ただし、返済義務や返済期限のある他人資本との適切な構成を利用して、最終的な利益率の向上をはかることが、経営手法の有効な手段をなしている。このような状況の分析と検討をレバレッジ(梃子(テコ))効果と呼ばれている。また、いずれの資本調達を選択するか決定すること、すなわち適切な企業の資本構成の選択については、それらの調達コスト、すなわち資本コストを考慮することが重要である。
負債比率は、負債レバレッジと呼ばれることもある。自己資本に対する総資本の倍率は財務レバレッジと呼ばれる。負債レバレッジという表現は、資産収益率がプラスであれば、負債をレバレッジ(梃子)にして、自己資本利益率の改善ができることからそのように呼ばれている。このことを負債のレバレッジ効果(leverage effect of debt)と呼ぶ。言い方を変えると、負債で稼いだ収益が、負債コストを上回る分、すなわち、利益は負債が大きいほど多く生み出され、自己資本利益率が改善される。
企業の側から負債コストの利子は、経費として収益から控除できるので、当該利子(経費)を課税対象所得から減額して税金を少なく払う、つまり節税効果(saving tax effect)がある。また、負債コストが固定されている下で、インフレーション(物価上昇、以下、「インフレ」)が進行するとインフレを考慮した実質的な負債コストが名目コストに比べて小さくなるという現象がある。わが国は、第二次大戦以後、近時のデフレーション期まで緩やかなインフレ(石油ショック期を除く)が進行していた。このことは、次のように説明ができる。一般的にインフレのときは、コストよりも売上の伸びが大きくなり、その下で利払いが固定されれば、その負担コストは相対的に小さくなる。
実質利子=名目利子-物価上昇率
それでは、負債比率の上昇は、ほかに問題がないのであろうか。負債の増加は負債コストの増加を招来する。負債コストの主なものは利払いであり、企業としては生産や売上の増減にかかわらず利払いが必要な固定費用として負担増になる。このことは、企業の損益分岐点売上高を押し上げ、それだけ企業の財務体質を脆弱させる原因となる。負債比率の上昇は、企業が自覚しない間に徐々に弱めていることになる。これを、危険逓増(increasing risk)と呼ぶことがある。このリスクは、借り入れる企業側は勿論のこと、貸し付ける金融機関にとってもリスクである。このリスクは、負債コストが高いほど上昇すると考えられる。この意味で、負債の上昇は、自律的な反転の仕組みを持っているともいえる。それは、負債のコスト水準(財務体質あるいはそこに示される信用格付け)を意識的に管理することで、財務上の節度をおのずから保つことができるからである。
1990年代から2000年代にかけて日本企業は、バブル時期に膨張した負債の上昇がもたらしたコスト負担に苦しんだ。物価が下がり気味(デフレーション)のときには、インフレのときとは逆に、実質的な負債コストが名目コストに比べて大きくなる。売上が減少し利益が減っても金利負担が従前のままだからである。このこともあって、1990年代から2000年代にかけて日本経済がデフレ現象に見舞われたとき、多くの企業では、負債コストの負担に苦しみ、負債比率の切り下げ、すなわち、財務リストラが大きな経営課題になった。負債に依存した経営には、金融機関が常に融資に応じる姿勢をとっているとの前提がある。これを資金の融通可能性(availability)という。デフレ下の日本企業が直面した一つの問題に金融機関の貸し渋りがある。つまり、金融機関の都合で貸し出し態度を一変させる貸し出しに応じない態度をとった問題である。これは、金融機関の立場からみると、デフレ下の日本で、企業の収益が悪化する一方で、金融機関としては、融資残高の不良化が進行し資産の質が劣化し、株価の下落によって株価の含み益に依存した自己資本比率の維持が困難になり、貸出残高の圧縮と貸出資産の内容改善を迫られたからである。他方、金融機関の貸し渋りにより、金融機関の融資に依存することのリスクを認識した企業は、無原則な負債依存の経営体質から離脱するようになった。デフレの終焉とともに、企業が借り入れに再び積極的になる兆候が見られるが、デフレ期の経験が今後、企業の経営行動に相当期間影響を及ぼすことが考えられる。
参照 ⇒【資本構造】【損益分点分析】




